CONTENTS コンテンツ

ナラティブ・アプローチの実践5ステップ|1on1や組織開発・キャリア支援への応用事例

コラム

2026.10.21

前回は、ナラティブ・アプローチの基本概念や「語り」が持つ力、聞き手に求められるスタンス(無知の姿勢)について解説しました。第2回となる本記事では、このナラティブ・アプローチをビジネス現場やキャリア支援で具体的にどのように進めていけばよいのか、実践のための「5つのステップ」と、組織・マネジメントへの具体的な応用事例を詳しく解説します。

ナラティブ・アプローチをビジネスで実践する5ステップ

ステップ1:現状の傾聴と「外在化」(個人と問題を切り離す)

まずは、語り手が抱えている現状や悩みを一切否定せずに傾聴します。その上で最も重要なテクニックが「問題の外在化」です。
「あなたがダメだから問題が起きている」と個人に原因を求めるのではなく、「あなた」と「問題」を意識的に切り離して捉えます。例えば、「ミスが多い部下」と見るのではなく、「『プレッシャー』という問題が彼を邪魔している」というように、問題を人物の外に置きます。問題を客観的な対象として定義し直すことで、本人は過度な罪悪感から解放され、冷静かつ主体的に課題に向き合えるようになります。

ステップ2:ユニーク・アウトカムの発見(成功体験や例外の掘り下げ)

問題について語る中で、問題の影響を受けていない「例外的な瞬間(ユニーク・アウトカム)」を慎重に見つけ出していきます。どれほど困難な状況であっても、過去を詳しく紐解くと「上手くいった瞬間」や「問題の影響を受けなかった場面」が必ず存在します。
「これまでにも似たようなピンチを乗り越えた経験はないか?」「いつもなら失敗する場面で、なぜ今回は対処できたのか?」といった問いを通じて、本人が見落としていた成功の兆しや、隠れた強み・工夫を浮き彫りにしていきます。

ステップ3:新しい意味付けとストーリーの再構築

発見したユニーク・アウトカムを拠点として、これまでの「自分はダメだ」「この組織は変わらない」といった支配的な物語(ドミナント・ストーリー)を解体し、新しい物語(オルタナティブ・ストーリー)を編み直していきます。
過去の失敗やネガティブな体験に対しても、「あの苦しい経験があったからこそ、今の自分の強みが磨かれた」というように、新しい意味づけを行っていきます。自身の捉え方がポジティブに変容することで、未来に対する視野が広がり、これまで見えていなかった選択肢が見えるようになっていきます。

ステップ4:アクションプランへの落とし込み

新しく紡ぎ出したオルタナティブ・ストーリーを、現実の日常業務や行動へ落とし込む段階です。対話によって気づきを得るだけで終わらせず、「新しい物語を生きるために、明日から具体的にどんな小さな一歩を踏み出すか」を一緒に決めます。
ここでのポイントは、高すぎる目標を設定するのではなく、新しく見出した価値観やストーリーに沿った「確実に実行できる具体的行動」を定義することです。実際の行動変容を促すことで、新しい物語を確固たるものにしていきます。

ステップ5:周囲による承認と定着(観客としての職場の役割)

新しく生まれたストーリーや行動変容を、職場の周囲(上司、同僚、チームメンバー)が「観客」として承認し、祝福するプロセスです。人は自分ひとりの力だけで新しい物語を維持することは困難であり、周囲からの肯定的なフィードバックがあって初めて定着します。
本人の小さな変化や挑戦に対して、周囲が「その行動は新しい方針に沿っているね」「素晴らしく変わったね」と声をかけ承認することで、オルタナティブ・ストーリーは個人の頭の中だけでなく、組織の共通認識として確固たるものになっていきます。

ビジネス・キャリア支援における具体的な活用シーンと導入事例

【組織開発・チームビルディング】理念浸透とエンゲージメントの向上

組織の理念(MVV)やビジョンを一方的に押し付けるのではなく、各メンバーの「個人の物語」と「組織の物語」を重ね合わせる対話ワークショップなどに活用されます。
メンバー同士がお互いの原体験や「なぜこの仕事をしているのか」という語りに耳を傾けることで、チーム内の心理的安全性が飛躍的に高まります。個人の価値観と組織の目指す方向性が合致することで、当事者意識(オーナーシップ)とエンゲージメントの双方が向上します。

【マネジメント・1on1】部下の主体性とモチベーションを引き出す対話

日常のマネジメントや定期的な1on1ミーティングにおいて、部下の本音や潜在的な強みを引き出すための対話フレームワークとして効果を発揮します。
業務の進捗確認や問題の追及に終始するのではなく、「最近の仕事で最もやりがいを感じた瞬間は?」「どんなときにモヤモヤしたか?」といった、部下の感覚や捉え方にフォーカスした問いかけを行います。上司が評価せずに聴くことで、部下自身も気づいていなかった本当の望みや成長意図が表面化します。

【キャリアカウンセリング・採用】求職者・社員の軸を引き出す自己分析

キャリア支援や採用面接において、対象者の「軸」や「モチベーションの源泉」を抽出するシーンで導入されています。
スキルや経歴などの「点」の情報だけでなく、「これまでどのような選択をしてきたか」「どんな葛藤を経て今に至るのか」というストーリー全体を聴くことで、表面的な履歴書には現れない価値観を理解できます。求職者の生き方と自社の文化を深くマッチングさせることが可能になり、入社後のミスマッチを防ぎます。

【チェンジマネジメント】組織変革期における抵抗感の低減

事業方針の転換やシステム導入など、組織の大きな変革期において生じる「社員の抵抗感」を和らげる手法として活用されます。
変革に対して反対意見を持つ社員を単に「抵抗勢力」と見なすのではなく、彼らが抱く懸念やこれまでの成功体験(古いドミナント・ストーリー)を丁寧に傾聴します。その上で、「これまでの実績を活かしつつ、どう新しい時代に適応していくか」という共有のストーリーを再構築することで、スムーズな変革を促します。

まとめ:対話を通じて個人の強みと組織の推進力を引き出す

ナラティブ・アプローチの実践は、単に「話を聴く」ことにとどまりません。「問題の外在化」や「ユニーク・アウトカムの発見」といったステップを踏むことで、本人が気づいていなかった強みや新しい意味を見出し、実際の行動変容へとつなげていく強力なプロセスです。
1on1やチームミーティングなど、まずは日常の小さな対話から5つのステップを意識してみてはいかがでしょうか。

  • 次回予告:
    次回(第3回・最終回)は、ナラティブ・アプローチを導入することで得られる「具体的なメリット」と、実践時に陥りがちな「注意点・運用の限界」について詳しく解説します。ぜひ最後までご覧ください。

この記事をシェアする